木製冷却塔は、本体構造に木材を用いた冷却塔です。本記事では、「木材とFRPを知るための技術資料」として、木製冷却塔が採用されてきた背景や使用される木材、防腐処理、腐朽への対応、FRP部材への更新についてまとめました。
木製冷却塔が使われてきた背景

日本の冷却塔技術は、高度成長期に欧米の化学プラント技術とともに導入されました。当時の海外製冷却塔では、木材を本体構造に使う方式が一般的であり、日本国内でも1980年代頃まで多くの木製冷却塔が納入されました。木材は比較的軽く、現地で切断や穴あけを行いやすいため、大型設備の組立てや部分補修に適しています。傷んだ部材を一本ずつ交換できることも、長期間使用する設備にとって大きな利点でした。
・なぜ昔の冷却塔には木材が多く使われたのか
木製冷却塔が普及した時代には、現在のようなFRP製の長尺構造材はまだ一般的ではなく、金属材料についても、常時高湿度となる冷却塔内部で長期間使用するための防食仕様や経済性に課題がありました。その中で木材は、軽量で加工しやすく、適切な樹種選定と保存処理を行えば、高湿度環境でも実用的な耐久性を得られる材料でした。入手性、施工性、補修性を含めた総合的な経済性に優れていたことが、木材が広く採用された大きな理由です。
その後、FRP成形技術や鋼材の防食技術が発達し、耐久性や品質の均一性に優れた材料を選択しやすくなりました。そのため、新設設備では木材以外の材料が採用される例が増えています。ただし、既設の木製冷却塔では、木材の部分交換のしやすさを活かしながら維持管理を続けることができます。
導入初期には、北米に自然生育するレッドウッドが使用されていました。その後、自然保護による伐採規制などを背景に、代替材として米松、すなわちダグラスファーが使われるようになりました。木材は同じ樹種でも産地や生育条件によって年輪の幅、硬さ、節の状態などが異なります。このため、設計や補修では名称だけで判断せず、実際の材質、寸法、含水状態を確認することが重要です。
木材を長く使うための防腐処理
木材は水分、温度、酸素、栄養という条件がそろうと、腐朽菌の活動によって細胞壁が分解され、強度が低下します。冷却塔内部は水を扱うため、乾燥した建築物とは異なる厳しい使用環境です。特に、木口、接合部、部材が重なる部分、水や堆積物が滞留する部分は、点検時に注意して確認する必要があります。

図:木材の加圧注入装置
木材の防腐・防蟻性能を高める方法の一つが、保存薬剤の加圧注入です。木材を密閉容器に入れ、圧力を利用して内部まで薬剤を浸透させます。過去にはCCA処理が広く使われました。CCAはクロム、銅、ヒ素を含む保存剤で、木材の耐久性を高める一方、撤去や廃棄の段階では一般の木材と分けて適正に処理する必要があります。対象材の履歴が不明なときは、外観だけで処理方法を断定せず、記録や分析結果を確認することが大切です。
現在はCCA以外の保存処理が採用されています。ただし、防腐処理を行った木材でも永久に劣化しないわけではありません。切断や穴あけによって未処理部が露出した場所、施工後に水がたまりやすくなった場所、接合金物の周囲などは継続的な観察が必要です。防腐処理は点検を不要にするものではなく、適切な点検、補修と組み合わせて効果を発揮します。
木材寸法を考えるときの目安
木材の長さはフィート単位で流通する場合があります。設計時の基本的な目安として14フィート、約4,000ミリメートル程度を目安の上限とし、材料長さの上限として検討する考え方があります。実際の入手可能寸法は樹種、断面、等級、仕入先、輸送条件により異なるため、設計初期の確認が欠かせません。
腐朽と点検の考え方
腐朽は、表面の色が変わっただけの状態とは異なります。紫外線や汚れによる変色では強度への影響が小さい場合がありますが、腐朽菌が木材内部の細胞壁を分解すると、見た目の変化が小さくても強度が低下することがあります。そのため、色だけで良否を判断せず、軟化、割れ、断面欠損、接合部の緩み、部材の変形などを総合的に確認します。
・木材の水分状態と腐朽
木材腐朽菌が活動するには、水分、温度、酸素、栄養が必要です。十分に乾燥した木材では水分が不足するため、腐朽は進みにくくなります。一方、木材が常時水中にあり、内部への酸素供給が著しく少ない状態でも、一般的な腐朽菌の活動は抑えられます。ただし、「完全に湿潤していれば腐らない」という意味ではありません。水分が多くても空気に触れる部位では腐朽が進む可能性があります。特に、水にぬれた後に乾燥する状態を繰り返す部分や、水面付近、飛まつがかかる部分は、水分と酸素の両方が供給されやすいため、重点的な点検が必要です。
・ぬれた木材と乾燥した木材の違い
木材は水分を吸収すると膨張し、乾燥すると収縮します。ボルト接合部では、木材が膨張すると座金やナットに対する締付けが一時的に強くなる場合がありますが、膨張量や木目方向、接合部の状態によって挙動は異なります。反対に、木材が乾燥収縮すると、ボルト軸力が低下してナットや接合部に緩みが生じやすくなります。そこへファンなどの振動が加わると、緩みが進行するおそれがあります。
このため、冷却塔の木材が乾燥している状態でファンを運転する場合は、接合部の状態に十分注意する必要があります。設備の運転条件として乾燥時のファン単独運転を禁止または制限している場合は、その運転基準を優先し、運転前にボルト・ナットの緩みや部材の収縮状態を確認します。
点検写真は、位置、方向、撮影日、対象部材が分かるように記録すると、次回点検との比較に役立ちます。同じ場所を同じ角度から撮影し、健全部と比較することで、変化の進行を把握しやすくなります。
木材からFRP部材へ

図:FRP引抜材
木製冷却塔では、腐朽が進んだ木材部品を交換して健全な状態へ戻す補修が行われます。一方、使用環境や腐朽状態によっては、交換後の部材にも再び劣化が生じることがあります。こうした維持管理上の課題を背景に、補修材や更新材としてFRPが使用されるようになりました。FRPは繊維で補強したプラスチックで、冷却塔の部材には一定断面を連続的に製造できる引抜成形材が利用されます。
FRPを構成する材料
FRPは、樹脂を母材とし、ガラス繊維などを補強材として組み合わせた材料です。ガラス繊維を連続した糸状にまとめたロービングや、布状に織ったガラスクロスなどを用途に応じて使い分けます。樹脂だけの場合と比べ、繊維を組み合わせることで、引張強さや形状保持に必要な性能を持たせることができます。

図:ガラス繊維とガラスクロス
引抜成形では、連続した補強繊維を樹脂槽に通して樹脂を含浸させ、余分な樹脂や気泡を取り除いた後、加熱した金型へ導きます。金型の中で所定の断面形状に成形・硬化させ、引抜装置で連続的に引き出します。成形品は必要な長さに切断できるため、柱材、梁材、斜材など、一定断面の長尺部材に適しています。

図:連続引抜成形の工程と設備
FRP部材は自由な長さに切断できますが、実際の製品寸法は輸送条件の影響を受けます。最大寸法を5800ミリメートル以下としています。設計では、製造可能な長さだけでなく、工場から現場までの輸送、荷降ろし、現場内の取り回し、据付方法まで含めて部材長さを決めます。
木材とFRP、それぞれの特徴を活かす
木材には、軽量で加工しやすく、現地での補修に対応しやすいという長所があります。FRPには、水分の多い環境で腐朽菌による劣化を受けず、一定品質の長尺部材を製造しやすいという特徴があります。ただし、どちらも材料を置き換えるだけで設備の安全性が決まるわけではありません。荷重、接合方法、支持条件、紫外線、点検性、交換方法などを総合的に検討する必要があります。
維持管理で確認したいポイント
- 木口、切断面、ボルト穴など、水分が入りやすい部分を確認する。
- 部材が重なる場所や金物周辺に、水や堆積物が残っていないか確認する。
- 変色だけではなく、軟化、割れ、欠損、反り、接合部の緩みを確認する。
- 過去の写真や記録と見比べ、劣化が進行しているか確認する。
- 保存処理材を撤去する場合は、処理履歴を確認し、適切に分別・処理する。
まとめ
木製冷却塔は、木材の軽さ、加工性、交換のしやすさを活かして発展してきました。長期間安全に使用するには、木材の繊維方向や水分との関係、防腐処理の意味、腐朽が進みやすい場所を理解することが重要です。また、FRP部材への更新では、材料の耐久性だけでなく、接合部、輸送、施工、将来の点検まで考慮しなければなりません。材料の特徴を正しく理解し、定期点検と記録、適切な補修を積み重ねることが、冷却塔を長く安全に使用する基本となります。



