「外気湿球温度」はご存知でしょうか?
冷却塔(クーリングタワー)の外気湿球温度を日常生活で使用することはまずありませんが、冷却塔の設計を行う上で、必ず条件として決める必要があります。
本記事では、外気湿球温度をわかりやすく解説します。
冷却塔(クーリングタワー)とは
冷却塔(クーリングタワー)の外気湿球温度を説明する前に、そもそも冷却塔とは何かを簡単に説明しておきましょう。
冷却塔とは、ビル空調や地域冷暖房設備に使用されている冷凍機の冷却水を冷やすための装置です。
冷凍機の冷却水は、使用されると温度が上昇します。
このとき、冷却塔が温まった冷却水を冷やすことで、冷凍機が連続して冷水を作るという役割を果たすことができます。
冷却塔は快適な環境を保つ一助となっています。
冷却塔(クーリングタワー)はどのように冷却水を冷やしているのか?
冷却塔(クーリングタワー)が行う冷却水の冷却には乾球温度と湿球温度が深く関わっています。
乾球温度とは、一般的に気温と呼ばれている温度のことで、一般的な温度計で測定できるものです。
外気に直接温度計が触れることで、現在の温度を測定できる仕組みになっています。
それに対し、湿球温度とは、計測器の温度を感知する部分を水で湿らせたガーゼなどで覆われた温度計で測った温度のことです。
外気湿球温度は、冷却塔の冷却性能である冷却塔出口水温の限界を決める大気の状態を表します。
冷却塔の設計を行う上で、条件として決めておく必要のある重要な数値です。
一般的に、冷却塔の冷却水の冷却方法は以下の2種類です。
- 顕熱量変化による冷却法
- 潜熱量変化による冷却法
「外気湿球温度」を説明するため、2種類の冷却法を簡単にまとめます。
顕熱量変化による冷却法
顕熱量変化による冷却法は、冷却塔(クーリングタワー)内に取り込まれた空気と管内を流れる冷却水との間接的接触による冷却法です。
簡単に言うと「水を空気で冷やす」冷却法で「空冷式」と呼ばれます。
一般家庭のエアコンや空冷チラーなどのも使用される冷却法です。
潜熱量変化による冷却法
潜熱量変化による冷却法は、冷却塔(クーリングタワー)内の冷却水を一部だけ蒸発させて冷却水そのものを冷やす方法で「水冷式」と呼ばれます。
1%の水が蒸発することで、残りの99%の水の温度を約6℃下げることができます。
水の気化熱(潜熱量変化)は非常に大きく、驚くほどの力を秘めています。
蒸発により冷却水の温度を下げる方法ですので、蒸発できなくなる状態を示す外気湿球温度より冷却水の温度を下げることはできません。
冷却塔(クーリングタワー)の外気湿球温度とは?
上記のように、冷却塔での冷却方法は2種類ありますが、ここからは潜熱量変化による冷却法=「水冷式」に絞って説明します。
具体的に、冷却塔の外気湿球温度が冷却塔の性能にどのように影響しているかを見ていきましょう。
冷却塔(クーリングタワー)の外気湿球温度の定義
外気湿球温度を理解するためには2つの概念を理解しておくと良いでしょう。
1.外気湿球温度の定義として「湿球温度とは蒸発による冷却で到達出来る最低の温度(言い換えれば外気湿球温度よりも下げることは出来ないという事)」
美味しいホットコーヒーを飲んでいました。
その時、友人から電話が掛かってきました。久しぶりだったので2時間も話していました。
その結果、コーヒーはすっかり冷えてしまいました。
この温度が到達出来る最低の温度かどうかは断定できませんが、かなり冷たくなっていることはイメージ出来ると思います。
十分な時間があればその時の部屋の湿球温度までコーヒーの温度は下がっているであろうという事です。
2.湿ったガーゼにつつまれた「湿球」は水分が蒸発するときに「潜熱=気化熱」が奪われて温度が下がります。
しかし、その周りの空気からは「湿球」に熱が補給されます。この奪われる熱量と補給される熱量が釣り合うようになります。
言い換えれば、湿球温度計の動きが止まったときの温度が「湿球温度」になります。
冷却塔(クーリングタワー)における外気湿球温度の重要性
冷却塔(クーリングタワー)の冷却性能を表すためには次の条件があります。4つの条件が必要です。
もちろん今回のテーマである「外気湿球温度」も含まれます。それぞれについて詳しく説明します。
冷却塔は冷凍機で使用され温められた冷却水を繰り返し冷やし循環させるのが仕事です。
その冷却水量を文字通り「循環水量」と呼びます。主機である冷凍機で決まる値です。
温められて戻ってくる冷却水の温度を「入口水温」と呼びます。冷却塔が冷やして冷凍機に戻す冷却水の温度を「出口水温」と呼びます。
これが冷却塔の4条件です。
それぞれに記号で表します。
L=循環水量、Tw1=入口水温、Tw2=出口水温、WB=湿球温度となります。
ここで代表的な冷凍機である「ターボ冷凍機」にてこの4条件を示します。
Lは冷凍機の容量によって決まります。Tw1=37℃、Tw2=32℃、WB=27℃が一般的です。
しかし、WB(外気湿球温度)は冷却塔が設置される場所や設置状況によって変わります。沖縄では28℃、北海道では26℃、東京では27℃などと変わってきます。
もちろん、温暖化が進んでいる現在ではWBの設定が少しずつ高くなる傾向もあるようです。
それでは同じ循環水量でTw1=37℃、Tw2=32℃とした場合、各地でこの温度条件をクリアするための冷却塔がどのように変化するかを見てみましょう。
冷却塔のサイズの変化を見てみますが東京のWB=27℃を100とします。
東京 :Tw1=37℃、Tw2=32℃、WB=27℃ 塔体ボリューム 100
沖縄 :Tw1=37℃、Tw2=32℃、WB=28℃ 塔体ボリューム 120
北海道:Tw1=37℃、Tw2=32℃、WB=26℃ 塔体ボリューム 85
概算ですが、外気湿球温度(WB)が1℃違うだけで同じ循環水量(L)を同じ入口水温(Tw1)から同じ出口水温(Tw2)まで冷やすのにこれだけ冷却塔の大きさが変わります。
これだけボリュームが変化することが分かると、外気湿球温度の重要性が少し分かりかけてきたかもしれませんね。
外気湿球温度の定義で「湿球温度とは蒸発による冷却で到達出来る最低の温度(言い換えれば外気湿球温度よりも下げることは出来ないという事)」を説明しました。
しかし、現実には湿球温度に近づけるということはありません。
三つの地域の設計例を示しましたが、出口水温(Tw2)と外気湿球温度(WB)の差は5℃前後です。
出口水温(Tw2)と外気湿球温度(WB)の差をアプローチと呼びますが、冷却塔の一般的特性としてアプローチが大きくなると冷却塔のボリュームは小さくなります。
逆にアプローチが小さくなると冷却塔のボリュームは大きくなります。
このように外気湿球温度は冷却塔の性能に大きな影響を与えることが理解できれば良いと思います。
まとめ
外気湿球温度は水冷式の冷却塔(クーリングタワー)を効率的に設計するための重要な数値となります。
水が蒸発するときに発する熱量を利用した冷却方法であり、外気湿球温度が冷却水の最低温度になりますが、前述したように5℃前後のアプローチを持つことが一般的です。
冷却塔を効率よく稼働させるには外気湿球温度をどのように設定するかが重要です。